株主にお金を返したときに生じてくる「みなし配当」という問題。
その計算に使う資本金等はいつ時点のものか?
というお話です。

みなし配当と資本金等の関係

「みなし配当」とは、形式上は違うけど、経済的な実態が剰余金の配当と変わらず
税務上で配当と同じように扱われるもののことを言います。
良く起きるケースとしては、相対で自己株式の取得をするときなどがコレに該当します。

「配当」であるため、それを支払う法人には源泉徴収をする義務が生じてきます。
受け取る側では、個人であれば配当所得として扱われ、
法人であれば益金算入→受取配当の益金不算入制度が適用できます。

その計算方法は、
株主への交付金銭等が、交付の基礎となった株式等に対応する部分の資本金等の金額を超えた部分を
実質的な剰余金の配当=みなし配当として扱います。

要するに、みなし配当の計算の際には、
「株主に支払う金銭等の金額」と「資本金等の金額」の
2つの要素が必要になってくるのですが、
このうち「資本金等」の金額について、いつの時点のものを使うのでしょうか?

いつ時点の資本金等を使うか?

みなし配当を規定している条文を参照すると、下記のように書いてあります。
(みなし配当はいくつか種類があってそれぞれ条文の号数が違っているのですが、
今回は自己株式取得のケースを取り上げてみます)

<法人税法>
(配当等の額とみなす金額)
第二十四条 法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く。以下この条において同じ。)の株主等である内国法人が当該法人の次に掲げる事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額(適格現物分配に係る資産にあつては、当該法人のその交付の直前の当該資産の帳簿価額に相当する金額)の合計額が当該法人の資本金等の額又は連結個別資本金等の額のうちその交付の基因となつた当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、この法律の規定の適用については、その超える部分の金額は、第二十三条第一項第一号又は第二号(受取配当等の益金不算入)に掲げる金額とみなす。
・・・
五 自己の株式又は出資の取得(金融商品取引法第二条第十六項(定義)に規定する金融商品取引所の開設する市場における購入による取得その他の政令で定める取得及び第六十一条の二第十四項第一号から第三号まで(有価証券の譲渡益又は譲渡損の益金又は損金算入)に掲げる株式又は出資の同項に規定する場合に該当する場合における取得を除く。)
・・・
4 第一項に規定する株式又は出資に対応する部分の金額の計算の方法その他前三項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。

<法人税法施行令>
(所有株式に対応する資本金等の額又は連結個別資本金等の額の計算方法等)
第二十三条 法第二十四条第一項(配当等の額とみなす金額)に規定する株式又は出資に対応する部分の金額は、同項に規定する事由の次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める金額とする。
・・・
六 法第二十四条第一項第五号から第七号までに掲げる事由(以下この号において「自己株式の取得等」という。) 次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額
イ 当該自己株式の取得等をした法人(以下この号において「取得等法人」という。)が一の種類の株式を発行していた法人(口数の定めがない出資を発行する法人を含む。)である場合 当該取得等法人の当該自己株式の取得等の直前の資本金等の額又は連結個別資本金等の額を当該直前の発行済株式等の総数で除し、これに法第二十四条第一項に規定する内国法人が当該直前に有していた当該取得等法人の当該自己株式の取得等に係る株式の数を乗じて計算した金額(当該直前の資本金等の額又は連結個別資本金等の額が零以下である場合には、零)
・・・

引用元: 法人税法、法人税法施行令

税法なのでカッコ書きがいくつもあって大変読みにくいものではあるのですが、
大事なのは赤字の「取得等の直前」という部分です。

「直前」という言葉の通り、前期末から取得日までの資本金等の変動分を考慮する必要があります。
資本金等が頻繁に変動する、という会社はあまり多くないと思いますが、
ストックオプションを発行しているような会社だと、従業員がそれを行使したときに
資本金等が変動するため、
取得の直前日まで変動を細かく把握していないと、適正なみなし配当の金額の計算ができなくなります。

適正なみなし配当の金額の計算ができない→
源泉税の計算をミスる、ということなので、
「自己株式を取得する」「資本剰余金から配当する」
と考えたら、
期首からの資本金等の変動に注意するのと同時に
顧問税理士に相談するのが良いです。